本当の孫悟空を探す旅

A journey to find the true “Son Goku”

文学部日本語日本文学科

北辻 万結香

4回生/漢文学 稲垣裕史ゼミ

冒険エンターテイメントから成長物語へ。
新しい視点で『西遊記』を読み直す。

『西遊記』を卒論のテーマに選んだのは、偶然手にした幼児向けの絵本『孫悟空』がきっかけでした。私は、『西遊記』を「悟空を主人公とした冒険エンターテイメント」と捉えていましたが、その絵本では悟空の成長が描かれていたのです。視点を変えて読み直せば、悟空の成長物語として『西遊記』の新たな側面が見えてくるのではないかと思い、研究をはじめました。最初に取り組んだのは、悟空の成長のカテゴリー分けです。言動、戦い方、問題に対する解決方法の3つのカテゴリーに分類し、該当するシーンをマーカーで引いていきました。そして、似たシチュエーションのシーンを抜き出し、比較を行いました。例えば、戦い方のカテゴリーでは、それぞれの戦闘シーンで悟空が倒した人数を比較。人数が減っていけば悟空は戦い方を習得していると証明できるわけです。物語を分析していく作業は、自分の仮説が立証されていくことが実感できて楽しかったです。





弱点を補いあう悟空と三蔵の旅が卒論に
取り組む自分自身に重なった。

徹底的に原典を読み込む中で気づいたのは、悟空と三蔵法師の関係性の変化。三蔵は悟空に対して良い印象をもっていませんでしたが、天竺にたどり着く頃には悟空に感謝するシーンやセリフが出てきます。強気で乱暴だった悟空も、三蔵が妖怪に食べられたと思い込むシーンで初めて絶望を味わったことで、三蔵のことを気遣い、守るようになるのです。『西遊記』を題材としたドラマや映画では、妖怪との戦闘シーンばかりが強調されていますが、なぜ悟空がヒーローになり得たのかは原典を読まなければ見えてきません。悟空は戦力としては優れているけれど、怖いもの知らずの乱暴者。三蔵も実は完璧な人物ではなく、気が弱くて頼りない面もある。旅をする中でお互いに足りない部分を補いあい、ともに成長していく物語だからこそ、『西遊記』は多くの人を惹きつけるのではないでしょうか。私自身も卒論完成まで毎週ゼミで進捗報告を行い、壁にぶつかる度に先生や仲間にヒントを与えてもらいました。そして、最終的には1年間をかけて1万4000字の大作に。書いている途中は長く苦しい旅でしたが、卒論を通して物語を自分なりに解釈し、自分の考えを文章で表現する力が身についたと感じています。