名画と対話する女

A woman converses with a masterpiece.

文学部歴史文化学科

今井 澄子 教授

専攻分野:西洋美術史

絵画の中に隠されたキューピッド。
窓辺に佇む女性はラブレターを読んでいた?!

私の授業で初めに取り組むのは、スクリーンに映し出した絵画の第一印象を言葉にすること。次に絵画をじっくり観察して、何がどこに描かれているかを細かく記述し、その作品について知りたいことを挙げてもらいます。そうして見て感じたことの言語化を行ったうえで、学生の疑問に答えるかたちで、作品について解説していきます。例えば、ヨハネス・フェルメールの《窓辺で手紙を読む女》。そこに描かれている女性が何を考えているのか。単なる想像ではなく、科学的な調査によってある程度まで解明することができます。この作品にX線を当ててみると、何もないはずの空間にキューピッドが描かれており、女性が手にしている手紙がラブレターだと推測できるのです。けれど、フェルメールは、どのような場面を描いたか見る者へゆだねたいと考え、キューピッドの絵を消したのではないかと言われてきました。ところが、2019年、最新の調査でキューピッドはフェルメールの死後に何者かによって消されたことが判明。では、フェルメールは何を表現したかったのか。やはりラブレターであることを伝えたかったのか。それは謎に包まれたままです。





作品と向き合い、対話を重ねる中で
作品が私たちに新たな発見を与えてくれる。

私たちには目の前にある一枚の絵画しか見えていないけれど、実は見えない真実が隠されていることもある。作品と向き合い、そういった真実を探究していくのが西洋美術史を学ぶ面白さではないでしょうか。「美術」というと敷居の高いイメージがあるかもしれませんが、見方を覚えれば誰でも楽しめるものです。学生の中には、休日に美術館へ足を運び、家族や友人と美術鑑賞を楽しんできた様子を報告してくれる人もたくさんいます。作品の歴史を丸暗記するのではなく、実際に見て感じることこそ、学びの第一歩。作品に隠された真実を解き明かす理論的な視点はもちろん必要ですが、自らが感じる印象も大切にしてほしいですね。「きれい」「怖い」「不思議」、どんな印象でも構いません。その感性を手がかりに「なぜ、これが描かれているのか」「この人は何を考えているのか」といった疑問を追求していくと、当時の歴史や文化、作者が込めたメッセージを作品が教えてくれる瞬間があるのです。気になる作品に出会うと、きっと美術がもっと面白くなり、世界が広がりますよ。私の授業がそのきっかけになれば嬉しいですね。