分子生物学講座

講座紹介

私達の身体の多くの機能は遺伝子が発現すること、すなわち、遺伝子のもつ情報にしたがって様々なタンパク質が必要な時につくられることによって調節されています。このような、遺伝子の働きを通して様々な身体の仕組みを明らかにする学問を分子生物学と呼びます。本講座では糖尿病や脂質代謝異常症などの代謝性疾患の発症のメカニズム、また肝臓の発生・分化とその機能の維持がどのような仕組みでなされているかを遺伝子の働きを通して明らかにしたいと考えて、研究をしています。

スタッフ

教授 冨田 晃司 准教授 田中 高志 助教 小野 萌

所属学生

  • 6回生:6名
  • 5回生:6名
  • 4回生:6名

研究詳細

私達は毎日健康を維持するために食物を摂取していますが、食物成分(栄養素)は体内でエネルギー源になったり、身体の構成成分になったり、 身体の機能を調節したりしています。栄養素による種々の機能の調節は栄養素自身あるいはその代謝産物によって行われることもあるし、 内分泌系や神経系を介することもありますが、いずれの場合もタンパク質の量的あるいは質的変動を惹起することで行われています。 このうち、遺伝子の発現過程の調節によるタンパク質の量的変動は生体での重要な制御機構で、私達は栄養素が遺伝子発現過程、 特にその中心となる転写にどのような機構で影響を及ぼしているのかについて興味を持っています。

私達の身体は役割分担の違う多くの臓器や細胞が協調して働くことで、健康を維持しています。 私達はこのような臓器がどのようにしてつくられ、どのようにしてその機能が維持されているのかについても興味を持っています。 特に、肝臓や血液細胞がつくられ、その機能が維持されている仕組みを遺伝子レベルで明らかにしたいと思っています。

具体的な研究テーマは次の通りです。

1.哺乳動物における解糖系酵素ピルビン酸キナーゼ遺伝子発現の制御機構に関する研究

ピルビン酸キナーゼ(PK)は解糖系の重要な酵素です。哺乳動物では L型、R型、M1型、M2型と呼ばれる4種類のアイソザイムがあります。 これらのアイソザイムは酵素学的諸性質はもちろんのこと、発現の制御機構も異なっています。成体では L型は肝臓、腎臓、小腸、膵β細胞で、R型は赤血球で、M1型は骨格筋、心筋、脳で特異的に発現していますが、M2型は多くの組織に存在します。 胎児期の初期においてはどの組織も M2型のみが発現していますが、組織の分化・発達が進むにつれて上記の組織特異的アイソザイムに置き換わっていきます。 細胞が癌化すると、逆に組織特異的アイソザイムは減少あるいは消失して、M2型が出現あるいは増加します。 また、炭水化物の多い食事(高炭水化物食)は過剰なグルコースを脂肪に変えて貯蔵するための代謝系(解糖系や脂肪酸合成系)を活性化しますが、 ピルビン酸キナーゼの遺伝子発現も肝臓(L型)や脂肪組織(M2型)において亢進します。

私達はこれまでPKの全アイソザイムの一次構造を明らかにし、アロステリックな性質の有無に関与するアミノ酸残基を同定するとともに、 遺伝子の構造を明らかにして、L型と R型は同じ PKL 遺伝子から異なるプロモーターを使う選択的転写により生じること、 M1型と M2型は同じ PKM 遺伝子転写産物の相互排他的オルタナティブスプライシングにより生じることを示しました。 また、上記のような発現の制御機構を明らかにするために、両遺伝子の転写制御領域とその領域に結合する転写因子の同定を行ってきました。

L型およびM型ピルビン酸キナーゼ遺伝子の発現制御領域と転写因子
L型およびM型ピルビン酸キナーゼ遺伝子の発現制御領域と転写因子

現在は主にグルコースによる肝細胞における L型 PK 遺伝子の転写調節機構とインスリンによる脂肪細胞における M2型 PK 遺伝子の転写調節機構について、 転写因子と転写制御領域の相互作用、転写因子間の相互作用、インスリンやグルコースの転写因子までのシグナル伝達機構の解明を中心に研究を行っています。 同様な機構は脂肪酸合成系酵素の遺伝子など他の遺伝子についても働いていると考えられるので、本研究がこのような遺伝子システム全体の解明に繋がることを目指しています。
また、発生過程や癌化過程における PK 遺伝子の発現機構(転写およびスプライシング)の制御についても興味を持っています。

2.ホメオドメインタンパク質 Hex の機能に関する研究

本研究は偶然に見つけたものから新しい研究が発展していくという1つの例と言えます。これも、研究の面白いところであると思います。

ホメオボックス遺伝子は高等生物の形態形成や細胞の分化に重要な役割を果たす一群の遺伝子で、 ホメオボックスと呼ばれる 180 bp からなる高度に保存された配列をもっています。このホメオボックスは60 アミノ酸残基からなり、 特異的な DNA 結合能を有しているホメオドメインをコードしています。 したがって、ホメオドメインタンパク質は遺伝子の転写を制御する転写因子として機能しています。

私達は L型ピルビン酸キナーゼ遺伝子の転写因子の cDNA クローンのスクリーニング中に Hex のラット cDNA クローンを単離しました。 Hex は既にマウスやヒトの cDNA クローニングの論文が発表されていましたが、ほとんど研究されておらず、 ホメオドメインタンパク質に属する興味あるタンパク質であったので、面白い研究に発展するのではないかと考えて研究を開始しました。

胎生期11.5日の Hex ノックアウトマウス(右)と野生型マウス(左)
胎生期11.5日の Hex ノックアウトマウス(右)と野生型マウス(左)

これまでの研究から私達は Hex が肝臓の発生の最初の段階に必須であること、単球の分化にも必要なこと (これらはノックアウトマウスの解析から明らかになりました)、転写の活性化と抑制の両方に働くことなどを明らかにしています。 現在は Hex の標的となる遺伝子群の同定や Hex 遺伝子の発現を調節する転写因子の同定をすすめており、 肝臓の分化・発生や分化機能の維持を司る遺伝子ネットワークの解明、 また単球の分化に関わる遺伝子ネットワークの解明に貢献することを目指しています。

主な研究業績

2019年度

  • ホメオボックス遺伝子HexによるL型ピルビン酸キナーゼ遺伝子の転写調節 2019年 9月 日本生化学会大会

2018年度

  • ホメオボックス遺伝子 Hex による Transthyretin 遺伝子の転写調節 2018年 9月 日本生化学会大会

2017年度

  • Induction of the SHARP-2 mRNA level by insulin is mediated by multiple signaling pathways.
    Kanai Y, Asano K, Komatsu Y, Takagi K, Ono M, Tanaka T, Tomita K, Haneishi A, Tsukada A, Yamada K.
    Biosci Biotechnol Biochem. 2017 Feb;81(2):256-261. doi: 10.1080/09168451.2016.1249450. Epub 2016 Oct 28.

2016年度

  • 5-Aminoimidazole-4-carboxyamide-1-β-D-ribofranoside stimulates the rat enhancer of split- and hairy-related protein-2 gene via atypical protein kinase C lambda.
    Komatsu Y, Yanagisawa Y, Moriizumi M, Tsuchiya Y, Yokouchi H, Otsuka H, Aoyagi M, Tsukada A, Kanai Y, Haneishi A, Takagi K, Asano K, Ono M, Tanaka T, Tomita K, Yamada K.
    J Biochem. 2016 Apr;159(4):429-36. doi: 10.1093/jb/mvv116. Epub 2015 Nov 20.
  • ホメオボックス遺伝子 Hex による Scd1 遺伝子の転写調節 2016年 9月 日本生化学会大会

2015年度

  • ホメオボックス遺伝子HexによるTtr遺伝子発現の調節 2015年10月 日本薬学会近畿支部会
  • ホメオボックス遺伝子HexによるScd1遺伝子発現の調節 2015年12月 日本生化学会大会

2014年度

  • Insulin stimulates the expression of the SHARP-1 gene via multiple signaling pathways.
    Takagi K, Asano K, Haneishi A, Ono M, Komatsu Y, Yamamoto T, Tanaka T, Ueno H, Ogawa W, Tomita K, Noguchi T, Yamada K.
    Horm Metab Res. 2014 Jun;46(6):397-403. doi: 10.1055/s-0033-1363981. Epub 2014 Jan 20.

2013年度

  • Evaluation of a minimally invasive system for measuring glucose area under the curve during oral glucose tolerance tests: usefulness of sweat monitoring for precise measurement.
    Sakaguchi K, Hirota Y, Hashimoto N, Ogawa W, Hamaguchi T, Matsuo T, Miyagawa J, Namba M, Sato T, Okada S, Tomita K, Matsuhisa M, Kaneto H, Kosugi K, Maegawa H, Nakajima H, Kashiwagi A.
    J Diabetes Sci Technol. 2013 May 1;7(3):678-88.
  • Usefulness of a novel system for measuring glucose area under the curve while screening for glucose intolerance in outpatients.
    Sakamoto K, Kubo F, Yoshiuchi K, Ono A, Sato T, Tomita K, Sakaguchi K, Matsuhisa M, Kaneto H, Maegawa H, Nakajima H, Kashiwagi A, Kosugi K.
    J Diabetes Investig. 2013 Nov 27;4(6):552-9. doi: 10.1111/jdi.12096. Epub 2013 May 8.