教員コラム

体が発する病気のサインを糖から読み取る

薬学部 衛生・毒性学講座 講師 山田佳太

グルコースやガラクトース等の糖が鎖状に繋がった糖鎖と呼ばれる物質をご存じでしょうか?

糖が繋がった物質と言えば、食物から摂取するエネルギー源の炭水化物がイメージされやすいと思いますが、実は私達の体の至る所に様々な形の糖鎖が存在しており、体の働きや病気の発症に関わっています。例えば私達の体を構成している細胞の表面は100種類以上の糖鎖で覆われています。細胞表面の糖鎖は、細胞外の物質を受け取るアンテナのような役割を担っており、細胞が活動するために必要不可欠です(図1)。

一方、インフルエンザ、ノロウイルスやコロナウイルス等の多くのウイルスは、前述した細胞表面糖鎖の役割を逆手に取り、糖鎖に取り付くことで細胞への感染を成立させます。その他にも癌、筋ジストロフィー、アルツハイマー病等の様々な疾患に関与していることが明らかになりつつありますが、未だ解明できていない部分も多く、研究対象として興味の尽きない物質です。また、糖鎖には「形が変わりやすい」という面白い性質があります。この性質から、健康な時と病気の時では体の中に発現する糖鎖の種類が大きく異なると考えられており、糖鎖の形の変化を読み取り、病気の診断に応用するという研究が注目されています。

糖鎖の変化を分析するための技術開発

糖鎖と病気の関係を明らかにするためには、体の中の糖鎖を正確に測定できる分析技術が必要となります。しかしながら、糖鎖分析は多くの技術的な課題を抱えているため、既存の分析手法では病気に関わる重要な糖鎖を見落としている可能性があります。そこで私達は、新しい分析手法の開発研究を進めています(図2)。研究成果の一つとして、これまで測定が困難であった微量のマイナー糖鎖を簡便に測定できる技術を確立しました。その他にも、糖鎖とウイルスや他の生体物質とのやり取りを測定する糖鎖アレイ法と呼ばれる手法を確立しています。これらの研究成果はアメリカ化学会が発行する分析化学の専門誌に掲載されました。

膵臓癌診断技術の開発

新しく開発した分析技術を使って病気と糖鎖の関わりを調べる研究も進めています。この研究の成果の一つとして、膵臓がんの発症時に血液中に存在する特定の糖鎖と糖鎖に結合する物質が著しく減少することを明らかにしました(図3)。この現象に関心を持っていただいた企業と共同研究を進めることで、新たな膵臓癌診断法を開発し、国際特許を出願しました。膵臓癌は早期発見が難しく、発見された時には手の施しようが無い状況に陥ることの多い病気ですので、開発した技術が膵臓癌の早期診断法として利用されることを期待しています。

現在、膵臓癌以外の病気の時に生じる糖鎖の変化も明らかにしており、新たな診断法の開発に着手しています。これまで見逃されていた、体が発する病気のサインを糖鎖から正確に読み取るため、今後も研究を継続させていただければと思っています。