教員コラム

子どもの思いを聴く―アドボカシ―の実践

人間社会学部 人間社会学科 社会福祉コース 教授 農野寛治

1989年に国連で採択された子どもの権利に関する条約は、わが国でも批准され、1994年に国内で効力を発揮することとなった。後、2016年に児童福祉法が改正され、ようやく子どもの権利条約にうたう子どもの最善の利益の保障や子どもの意見表明権が法定化された。そして現在、子どもの思いを聴き取り、意見形成支援を行い、周りに向けて代弁をしていくアドボカシ―の取り組みが、国の政策課題となっている。ここ数年、児童養護施設等で暮らす子どもの施設訪問アドボカシ―の研究をしてきたが、子どもの思いを聴き代弁をしていくことの難しさと、その取り組みの重要性をひしひしと感じている。私は、子どもの思いを聞き取るためには、子どもに関わるおとなの原体験が、とても大事であると考えている。私の心に残っている原体験は、ふたつある。夏休みの地蔵盆で、子どもたちが集まって公園に安置されているお地蔵さんのまわりを掃除していると、町内会の某おじさんが「おまえら、ちゃんと掃除せんと、スイカやらんぞ。」と突然大声でどなった。私は、当時小学3年生くらいだったと思うが、何かその横柄で子どもを見下したような態度に、心がざわつき、そっと箒を置いて帰ってしまった。そして私の父の思い出である。父と二人で近所の風呂屋に行くと、いつも帰り際に駄菓子屋で何か好きなものを買っても良いと小銭入れを手渡してくれた。父は、公務員をしていたので、あまり小遣いもなかったろうに、そこには1円や五円、十円玉がぎっしりと詰まっていた。普段めったに子どもと遊ぶことのない寡黙な父であったが、その小さな心遣いは、とても暖かく感じた。今、わたしたちの社会では、子ども虐待や子どもの貧困など、さまざまな子どもの暮らしの問題が顕在化しているが、私たちおとなの感性そのものが問われているのではないか。