教員コラム

伝統的なきものと作品からよみとれるもの

文学部 歴史文化学科 准教授 村田裕子
婚礼衣装 雲に橘文様打掛
黒袷羽織 羽裏 翁に蜀江文様

衣服は第2の皮膚といわれるように、私たちの最も身近に存在しています。そして、「今日は何を着ていこう。」とTPOに合わせて毎日着るものに気を使い自分自身の身を装っています。現代は、ほとんどの人が洋服を着て暮らしていますが、皆さんもご存知のように100年程前までは、和服を着て暮らしていました。「洋服」という言葉は、西洋の人々が着ている衣服のことであり、「和服」や「きもの」という言葉は、日本の人々が着ている衣服という意味で使われるようになりました。明治のはじめに、欧米からの影響を強く受け、人々の服装が「和服」から「洋服」へと変わり始めます。しかし、現在も結婚式や成人式、卒業式などの儀礼の場では、打掛や振袖、留袖、羽織、袴などが着られ、伝統的なきものが継承されています。

さて、本学には博物館があります。私は、服装や染織の視点から日本の文化を考えており、博物館の展示を企画することもあります。2019年度の春季特別展では、「近代の礼装きもの」と題した展示を開催しています。泉州貝塚で江戸時代に廻船問屋を、近代に肥料商を営んでいた廣海家の婚礼衣装や儀礼の場で装う留袖や羽織、帯などを展示しています。展示をするにあたっては、資料の大きさや技法、文様などについて調べていきます。じっくりと実物資料を観察することによって、わかってくることがあります。婚礼衣装の美しさもさることながら、男物の羽織裏の文様も美術的価値が高く、その染織技術は素晴らしいものです。その中の一つに、正月や特別な祝儀の場で舞われる能の演目である「翁」の面と蜀江錦の文様が染と描絵で表されている羽裏があります。蜀江錦の文様は、翁を舞う際に着る狩衣の文様で、八角形と正方形を交互に組み合わせた特別な文様となっています。 作品からよみとれるものは、人それぞれです。広く深い知識を身につけ、これまでと違った作品の見方ができるようになると楽しみも広がります。

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