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人間社会学科発 「ある臨床心理士からのミニ情報」19

2018/03/19

19回:記憶は事実?真実?

 人間の記憶は重要なテーマです。記憶によって、経験は蓄積されたり、知識が増えたり、技術が上達したりします。そして、記憶があるからこそ、どんな分野であれ、経験者が初学者の方にアドバイスを与えることもできるでしょう。時折、心理カウンセリングの主な業務は、悩んでいる人にアドバイスをすると認識されることもあります。これは一概に間違いとは言えませんが、その前にいろいろと準備しないといけないこともあります。さて、今回は記憶によって生じる人間の落とし穴を考えてみましょう。前回、人間の記憶には、「偽りの記憶」が形成され、事実と反するものでも過去に生じたことと信じてしまう現象を紹介しました。
 今回、さらに極端な言い方をしますと、人間の記憶は時間が経過すればするほど、忘却だけでなく、圧縮されたり、変更されたりするものと表現しておきます。これは「人の気持ちがよくわかる」というセリフがいかに事実ではないことにも関連します。例えば、自転車でもバイクでも何でもいいのですが、危ない場面に遭遇したとします。しばらくして、知り合いが交通事故に巻き込まれたとします。その際、「わかる、すごく怖かったでしょ」と思わず言ってしまうことがあります。もちろん、事故の状況や被害の程度などによって、会話している2人の方がまったく同じ体験をすることはないでしょう。しかし、よく似た経験をすると、特に、ある経験をした先輩?は後輩に対して、わかったつもりになってしまいます。
 また、何日も何年も経過したとき、私たちの記憶は、当時の状況をどれほどリアルに再現できるでしょうか?例えば、30歳ぐらいの大人が、まだ自転車を乗りこなせない6歳の子どもをコーチする時、自分の子供時代に体験した自転車にうまく乗れなくて、何度もこけて、痛い目にあったり、くやしかったりした記憶はどれほど生々しくのこっているでしょうか?その時の自分の気持ちと目の前の子どもの気持ちが同じであるか自体、検証できませんが、現在、普通に自転車に乗れるならば、おそらく当時の自転車に乗れなかった嫌な記憶はかなり薄れているといえます。

(人間社会学科教員:小西 宏幸)




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