2016/09/30
第15回:前後関係(文脈)が大切
まず、写真をご覧ください。鳥の図です。さて、この図ですが、左右どちらに向かって移動されるかで印象が変わってきます。おそらくこの図を皆さんから見て右側に動かしていくと、タカやワシのようなトリに見えるかもしれません。逆に左側に動かしていくと、ハクチョウやガンなどのトリに見えるかもしれません。要は、同じ状況でもその前後関係によって、物事の印象は大きく変わってくるということです。心理相談の場面では、対策や方針を決定する前に、かなり時間をかけて情報収集して、問題の状況を整理、判断します。これを心理アセスメントと表現することもあります。このアセスメントの作業だけで90分とか2時間かけることもあります。また、方針が決定した後も、予想通りの効果が得られない場合、最初のアセスメント作業に間違いはないかを再度チェックするために、アセスメントのやり直しをすることを少なくありません。
例えば、「うちの子どもは家庭内暴力をします」との相談内容があったとします。その際、この情報だけで「暴力の問題でしたら、こうしましょう」とすぐに対策や方法は決定できません。その暴力はいつからつづいているのか?あらゆる相手に同じような暴力が出現しているのか?暴力が生じるタイミングはいつか?暴力が起きていない時はいつか?暴力が生じた際、周囲の大人はどんな対策をこれまでとってこられたのか?など、いろいろな情報を集める必要があります。当然、同じ暴力の問題でもそれぞれの事例によって適切な対応策が異なるわけです。
ピンポイントだけで物事を判断してしまうと、写真の例ですと、ハクチョウをタカと勘違いすることもあります。どういった前後関係で問題と思われる事態が生じているのか、この「流れ」のことを文脈といいます。この文脈が十分に検討できない場面、例えば、テレビ番組での「人生相談コーナー」などでは、非常に限られた時間で何らかの回答が比較的明確に出されていますが、あれだけで問題がうまく解決できるケースは非常に数少ないと思われます。
(人間社会学科教員:小西 宏幸)