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『センセイの本棚』 浅尾文学部長

2013/01/21

センセイお勧めの1冊を紹介します。まずは先陣を切って、浅尾文学部長に登場いただきます。

保立道久『歴史の中の大地動乱―奈良・平安の地震と天皇―』(岩波新書2012)

  保立道久氏の本を読むのは、『平安王朝』(岩波新書1996)、『黄金国家―東アジアと平安日本』(青木書店2004)、『かぐや姫と王権神話―『竹取物語』・天皇・火山神話』(洋泉社2010)と数えて、4冊目となろうか。どれも面白く、啓発されることが多い。専門的でありながら、初心者にも配慮した書き方と内容は、人に何かを伝えることを生業(なりわい)とする者には、それだけでとても勉強になる。 

この本も、もとはある原稿依頼を受けたことがきっかけで、参考資料の一つとして手にした。電車の中で読むのには丁度良いぐらいの気持ちで読み進めるうち、これが単なる〈過去〉の出来事に留まらないことを思い知らされた。内容は、奈良時代から平安時代にかけての地震などの天変地異とそれに対処した天皇の記録である。桓武天皇が延暦13(794)年に平安京(今の京都)に都を遷したことが、実は地震の巣に飛び込むことになったこと、このためにこの後の天皇が皆地震と対峙し続けねばならなくなったことが、時系列を追って記述されている。そして何より、一番衝撃的だったのは、その時系列に〈現代〉が重なって読めてくるところである。
言うまでもなく、2011,3,11の東日本大震災は我々にとって忘れがたい記憶となった。その時にニュースで伝えられたこととして、全く同じ出来事が清和天皇御代の貞観11(869)年の5月に起きていたのである。所謂「貞観大地震」である。多賀城の様子を記した『三代実録』の記録は、東日本大震災の際にテレビで伝えられた映像そのままである。そして、その9年後の元慶2(878)年、南関東で直下型の大地震が起きている。さらに9年後の仁和3(887)年7月、南海トラフが動き、南海・東海連動地震が起きている。見て分かるように、三つの大地震は9年を周期として連動して起きているのである。東日本大震災の後、「今後○年以内に首都圏でM7級の直下型地震が70%の確率で発生する」という言説や、「南海トラフ巨大地震の被害想定について」といった報告書がテレビでさかんに報道されるのは、こうした〈過去〉の歴史の繰り返しの中に我々がいるからである。この本は、〈過去〉の歴史から我々が何を学ぶべきかの本質を教えてくれていると言える。

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